■ペット・ロスとは?
■コンパニオン(伴侶)としての動物
■ペット・ロス時にみられる心や体の変化
■悲しみからの立ち直りのプロセス
■医療に関して後悔しないために
■高齢者にとって動物を失うということ
■ペット・ロスに年代(年齢)、性別による違いはあるか?
■ペット・ロスの悲しみから立ち直るには?
■周囲の人々のフォロー(何ができるか、どう接するべきか?)
 次獣医師の立場からペット・ロスに関して家族の方々に是非知っておいて頂きたいこととターミナルケアについてお話しします。ここで最も大切なことは、信頼できる獣医師を見つけることです。つまり、病気、検査、診断、治療、予後について十分納得のいく説明をしてくれる獣医師の所へ動物を連れていくことです。獣医師との間にしっかりとした信頼関係が築かれていなかった場合には、ペット・ロスからの回復が非常に難しくなることがあります。動物が亡くなった後で、獣医師や動物病院を責め続けたり、いつまでも自分自身を責めたり、後悔したりすることが無いようにしたいものです。

1. 家族は動物の代弁者
 動物病院での診療をスムースにそして充実したものするためのポイントをにいくつかお話しします。動物を病院に連れていった時に、獣医師あるいは看護士の人と話をするのは家族であり、家族は動物の代弁者です。動物はすべてを家族に委ねているのですから、できるだけ正確な情報が提供できるようにして下さい。時には家族にとってあまり都合のよくない内容もあるかもしれませんが、隠してもいいことはありません。
 また、すでに他の病院で何らかの検査や治療を受けているのであれば、検査結果や治療内容についても説明できるようにしておきましょう。薬によってはこれから行う検査結果に大きな影響を及ぼすものもあります。

2. 診断および治療方針の決定
 診断を進めるためにいろいろな検査が必要になりますが、何のためにどのような検査をするのかを必ず明確にしておいて下さい。通常、検査を行う前に獣医師から説明があるはずですが、よく分からない場合には費用の点も含めはっきりとさせておきましょう。知らない間にいろいろな検査が行われ、高額な検査料を請求されたと不平を言わなくて済むようにしたいものです。
 検査を行えば、必ず結果が出ます。獣医師は検査結果をもとに診断を進め、治療方針を決定します。検査結果、診断、そしてそれに基づく治療について、家族はきちんとした説明を受ける権利があり、正しく理解して動物にとって最も良い結果になるように努力する義務があります。この義務は家族にすべてを委ねている動物に対するものであることは言うまでもありません。病院で内服薬をもらったけれど、一体何の薬なのか全く分からないというのでは困ります。何のためにどのような薬が出されているのか、確かめて下さい。

3. インフォームド・コンセント
 最近、インフォームド・コンセントという言葉をよく耳にします。インフォームド・コンセントとは何でしょうか。医学領域では、”患者に対する十分な情報提供と患者による今後の治療法の選択”となりますが、動物医療においても患者が家族に置き換えられるだけで、内容は全く同じです。家族に対する十分な情報提供、つまり、正しい診断に基づいた病気の説明と治療方法に関する情報提供と家族による今後の治療法の選択です。
 これら一連の作業が動物医療におけるインフォームド・コンセントです。インフォームド・コンセントがきちんと行われることが、すべての始まりと言っても過言ではありません。十分納得できるまで、獣医師に質問して下さい。この時点で疑問や説明不足に対する不満があったりすると、動物が亡くなった時に自分を責めたり、病院関係者を恨んだりすることになります。家族は十分な説明を受ける権利があり、それに従って適切な判断をする義務があります。 
 人の医療の場合には”告知”、つまり患者に癌であることを伝えるか否かということが常に問題になるようですが、動物の医療の場合には、家族に検査の結果および診断を伝えることからすべてが始まります。家族と獣医師のコミュニケーションがとても大切な理由はここにあるのです。

4. ターミナルケア
 積極的な治療を行うことができない状態になった時、つまり、病気や外傷など原因は何であれ治療により動物の状態を今以上に改善させることができなくなった時、家族はどうしたらいいのでしょうか。病気そのものを治療することはできなくても、できるだけその動物のクオリティー・オブ・ライフを維持、向上させるような治療を行うことは可能な場合があります。たとえば、末期の癌で外科的に腫瘍を摘出したり、癌を縮小させるような治療ができない場合でも、痛みを緩和したり、体力をつけるために栄養価の高いものを食べさせたりすることはできます。
 ターミナルケアをどこで行うかという問題については、動物の場合、多くの選択肢があるわけではありません。家庭で面倒をみるか動物病院に依頼するかどちらかです。どうしても世話ができない場合を除き、ターミナルケアは家庭で行う方がよいと思います。しかしながら、もちろん動物の状態によっては入院させざるを得ないこともあります。どのような形にせよ、精一杯看病して悔いの無いようにすることが最も大切です。動物が亡くなってから、あーしてあげれば良かった、こうしていれば良かったということが無いようにして下さい。そのためには、自分はこうしたいということを獣医師にきちっと伝える必要があります。
 
 ここでお話ししたことはどれもきわめて当たり前のことなのですが、実際にはあまり実行されていないのではないでしょうか。これは皆さんの自分自身の健康管理に対する姿勢にも通じるのではないでしょうか。どうぞ、よりよい動物医療を受けるために努力して下さい。これらのことは動物の最後の時が近い場合には特に重要で、ペット・ロスからの立ち直りにも大きく影響します。
 治療方針を決定するに当たっては、インフォームド・コンセントが行われる訳ですが、家族である自分と動物にとって最良の方法が選択されなければなりません。そのためには、家族としてどこまでの治療を望むのかということを明確にしておく必要があります。最良の方法はケースごとに異なるものであり、家族の考え方と動物のクオリティー・オブ・ライフを大切にしながら、獣医師のアドバイスをもとに最終的な結論を出すようにしましょう。
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